第1章 安倍政権という災い2

真逆政治

 安倍政権を一言で表すとしたら、真逆政治である。真逆政治とは、国民のためになるどころか、逆に害になる政治のことである。そんな政治があるだろうかと思うかもしれないが、実は単純な話だ。真逆政治によって、国民は苦しむことになるのだが、一方で必ず得をする一部の人がいる。言い換えれば、得をする一部の人のために、国民全体が犠牲となる政治が、真逆政治なのだ。

では、具体的に何が真逆政治なのか。まず、消費税の増税が挙げられる。昨年、内閣官房参与だった藤井聡京都大学教授が「10%消費税が日本経済を破壊する」という本を出版した。藤井教授によると、デフレ不況が20年間も続いている状況で、もし消費税が10%になったら、間違いなく消費が大幅に落ち込み、日本経済全体が壊滅的打撃を受ける。賃金は名目上同じだとしても、増税によって実質的な可処分所得は減少するから、生活防衛のために消費を抑制し、必然的に経済は縮小して不況になる。

前回の2014年5%から8%の増税後、名目GDPは2013年の5兆1541億ドルから2015年4兆3900億ドルまで約15%落ち込んだ。当然デフレ脱却はできず、実質賃金が増えた者と増えない者の格差は拡大し、庶民の貧困化が進んだ。つまり増税で得をしたのは、税収が増えた国と一部の富裕層、そして巨額の還付を受けた輸出企業だった。一般国民は、負担を強いられただけで、メリットはほぼゼロである。

今度の増税は、貧困化した庶民に追い討ちをかける最悪の政策となる。一部の得をする者のための最悪の政策、それが消費税増税の正体である。

ところで、前述した「巨額の還付を受けた輸出企業」について、注釈しておきたい。ご紹介する情報は、ビジネスジャーナルというサイトの連載コーナーを担当する経済ジャーナリスト荻原博子氏が2018年10月19日に掲載したものである。では、必要な内容をそのまま引用する。

日本では、輸出業者に消費税が還付される「消費税還付制度」があります。たとえば、自動車を1台生産する場合、部品をつくる会社は部品を売ったときの消費税を国に納め、その部品を買って組み立てて製品にした会社は、それを親会社に売るときに消費税を納めます。そうやって、いくつもの会社が払ってきた消費税が、最終的に製品を輸出する企業に還付される仕組みになっています。

本来なら、部品をつくる会社、それを組み立てる会社と、消費税を払うそれぞれの業者にも出されてしかるべきですが、最終的に輸出されるときには輸出業者は免税で、そこにまとめて還付されることになっています。

この輸出業者に還付されるお金は、全国商工新聞によると約6兆円。つまり、消費税徴収額約19兆円のなかで、主に輸出業者に戻される還付金が約6兆円もあるということです。みんなから集めた消費税の約3割は、輸出企業に戻されているのです。

これに対してトランプ大統領は、アメリカに輸出する日本の企業は政府から多額の補助金をもらっていると怒っていて、だからダンピングでクルマなどが売れるのだと考えています。消費税を「輸出を促すための不当な補助金」だと非難しているわけです。

アメリカに消費税がない理由

そもそも、アメリカには消費税がありません。州単位では「小売売上税」という消費税に似たような税金を徴収していますが、国としてはないのです。1960年代から何度も消費税導入の議論はされていますが、ことごとく却下されています。

なぜアメリカの議会が消費税導入を却下するのかといえば、彼らは消費税というのは不公平な税制だと思っているからです。アメリカには、儲かった企業がそのぶんの税金を払うのが正当で、設備投資にお金がかかるので儲けが出にくい中小企業やベンチャー企業からは税金を取らないという考え方があります。儲かっていない中小企業の経営を底支えし、ベンチャー企業を育てて、将来的に税金を払ってくれる金の卵にしていく。それが正しい企業育成だというのです。

しかし、消費税というのは、儲かっていても儲かっていなくても誰もが支払わなくてはいけない性質の税金です。さらにいえば、儲かっているところほど相対的に安くなる逆進性を持っているので、アメリカでは不公平な税制だというのが議会や経済学者のコンセンサスになっています。

このように、消費税は、累進課税の所得税と違って、本質的に逆進性を持つ不公平税制であるばかりか、輸出企業に、還付という形で巨額の所得移転がされているとんでもない税金である。

消費税については、「第5章の4消費税廃止」で詳しく述べたので、是非参考にして欲しい。

真逆政治の二つ目は、安倍政権の、一見チャンス拡大と見せかける、規制緩和というまやかしだ。そのひとつに水道法改正がある。この改正によって、現在自治体が経営している水道事業は、民間委託が可能となる。民間委託というとイメージとしては効率化が図れてよさそうに聞こえるかもしれないが、実際はそうではない。

民間経営になって予想されるのは、まず値上げ。水がなければ生活はできないから、高くても買わざるを得ない。また、民間経営と言っても実態は競争のない独占なので、利益確保のために必ず値上げがある。次に、水質悪化が予想される。つまり、民間経営になれば、利益拡大を目指して、管理費を抑え、設備の更新や維持管理業務を縮小する。さらに、僻地への供給が削られる可能性がある。高収益を目指し、供給量、つまり水の売上が小さい地域を切り捨ててコストを削減し、収益を高めようとする訳である。

しかも、水道民営化が危険なのは、外資の参入が確定的な点である。水道民営化のノウハウは、経験的に国内企業にはなく、外資にしかない。ということは、これまで長い歴史を経て自治体によって築かれてきた日本の優れた水道事業は、いとも容易く、外資に乗っ取られるということになる。国民生活の命をつなぐインフラである水道を、規制緩和によって外資に売り渡す政策、それが水道民営化の正体だ。

平成29年8月に厚生労働省が発行した「水道法改正に向けて」という冊子を読むと、この改正、すなわち経営の民間委託が合理的であり、国民にとって必要な措置であることが書かれているが、これは、政府によるいつもながらの錯誤誘導、つまり、巧妙な騙しである。官僚達は、一般国民は馬鹿だから、簡単に騙せると思っている。

真逆政治の三番目は、利権政治、言い換えると白アリビジネスである。過大な内容の公共工事やプロジェクト、国家戦略特区や地方創生事業など、表向きの看板と裏に隠された目的が異なり、実際に得られる成果には国民のメリットがない、税金泥棒的な支出のことだ。

その特徴は、まず、看板に書かれた表向きのタイトルと形容詞が実に白々しいこと。その象徴が、加計学園獣医学部新設だ。何のことはない、国家戦略特区という看板の下に、お友達に、100億円を超える現金のプレゼントをすることを目的として、競争や審査に関係なく、初めから加計学園に決めていたことを疑う国民はいない。

もう一度言う。真逆政治とは、一部の特定の者が潤い、一方で国民全体が不要な負担を強いられる政治のことであり、安倍政権を特徴付ける、強烈な個性である。

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