日向農協モナコ観光不正融資事件裁判/損失処理・調査報告

損失処理

主な回収方法は、抵当権物件の処分になるが、平成21年9月11日から始まり平成24年5月11日まで、2年8ヶ月間かかっている。

古い順から売却資産と回収金額を並べると次のようになる。富高山林642坪任意売却190万円、北町土地886坪任意売却9697万円、亀崎土地268坪任意売却971万円、曽根店舗236坪競売760万円、財光寺土地競売配当金3392万円、ひょっとこ苑土地建物任意売却4494万円、の計1億9503万円である。

これに、共済の解約金310万円を加えて、合計1億9819万円の回収結果となっている。結果的に、未回収残高は、5億81万円-1億9819万円=3億262万円となった。

因みに、ひょっとこ苑は、平成21年1月から23年8月まで、毎月赤字を垂れ流しながら2年8ヶ月間(実質は1年程度)営業を継続したが、23年8月31日をもって廃業した。

ところで、川村組合長は、抵当権物件の処分が本格化する前の平成22年5月18日、組合長から非常勤理事に退き、三役は、米良正秋組合長、佐藤力副組合長、黒木正常務という体制となった。一方、福良監事は、引き続き常勤監事を務め、平成25年4月26日に組合長に就任した。

平成24年11月26日本店債権管理委員会及び12月4日理事会資料である「債務者モナコ観光株式会社、同株式会社ひょっとこ苑の貸出金の償却について」の「1.趣旨」には次のように書かれている。

「債務者モナコ観光株式会社及び株式会社ひょっとこ苑に対する貸出金については、両社が平成21年4月と23年8月に相次いで破綻し、担保処分等により整理を進めてきましたが、当該担保の処分も完了し、今般債務者らの法的手続きも終了したことから、残額の回収は不能となりました。よって、(中略)合計金額3億262万8579円を本年度末(平成25年1月31日)をもって償却します。」

未回収残高の内訳を整理しておくと、平成14年5月21日4億8000万円融資分の内2億1987万1081円(45.8%)、平成19年11月15日7200万円融資分の内5425万9533円(75.4%)、平成20年12月20日7200万円融資分の内2849万8965円(39.6%)、平成21年6月4日6741万8946円代位弁済分0円(0%)。
代位弁済を除く6億2400万円融資分に対しては、3億262万8579円(48.5%)となる。つまり、貸し付けた半分近くは未回収になったということになる。

また、資産売却による回収金の充当については、上記の通り、未回収率がバラバラであり、充当した配分について多々疑問が残る。


調査報告

大口債権処理にかかる調査委員会

日向農協は、当該損失処理案を理事会及び総代会で認めてもらうための報告のために、平成24年12月26日から4回に渡って「大口債権処理にかかる調査委員会」を開催した。委員会のメンバーは、5名の理事、三役、金融共済部長、監査室長、企画管理部次長、債権対策室課長の12名である。

第1回議事録の目的欄には、「モナコ観光株式会社及び株式会社ひょっとこ苑に対する貸付金の貸出審査並びに管理回収経過の調査」と書かれている。簡単に言うと反省会である。

会議録には「各委員から述べられた疑問点、問題視される点」という項目があり、次のように記載されている。(重要な内容だけピックアップした。)

第1回(平成24年12月26日)

  • 担保の評価の仕方に関し、先順位額を極度額とするのか、債権残高とするのか、といった部分に問題があったのではないか。
  • そもそも、補償金での繰上返済は全額の計画であったのか、一部の計画であったのかが判然としない。
  • 補償金の受け取り方に問題があったのではないか。
  • 代理受領委任契約はできなかったのか。
  • 審査当初の確約書につき、繰上返済額を明示すべきではなかったか。
  • 補償金が入金された際強制的に引き落としできなかったのか。
  • 補償金が2億円ではなく2420万円しか充当されなかった、もしくは充当できなかった理由なり事情は何だったか。
  • 平成15年9月30日付条件変更申請書について問題があったのではないか。
  • 理事会付議せず組合長決済のみで執行したことは問題ではないか。
  • 職制規定に曖昧な部分があったため組合長決済で執行したとの見方もあり、平成17年に職制規定を改定し明確にした経緯があるようだ。
  • 申請書に添付されている繰上償還パターン1~3の作成部署やその経緯が不明であり、ここで2億円の繰上返済が検討されていないことが不可解である。

第2回(平成25年1月7日)

①平成14年の4億8000万円の当初審査に問題があったのではないか。

ア、結果論だが、管財人報告書によれば、平成12年頃にはパチンコ部門の収支が悪化しつつあり、同17年頃から一層悪化していることが見て取れ、それを調査する能力や審査力が十分ではなかったのではないか。

イ、審査では決算書も見るだろうが、まずは黒字であれば良しとする見方もあったのではないか。
②平成17年10月11日の条件変更申請書を見ると、2420万円繰上返済に止まっていながら、それで至極当然といった感じになっている。
⑤当初の返済条件である2億円の繰上償還という条件について、債務者側と十分に話し合っていなかったのではないか。

第3回(平成25年1月15日)
②担保物件、評価の推移に関すること。

ア、先順位額の計上に問題があったのではないか。

イ、補償金の額を参考として評価している部分があるのではないか。

ウ、借地上の遊技場は評価額をゼロとすべきではなかったか。借り換え前の西日本銀行の評価方法はゼロではなく、非評価とされていたようだ。
④平成15年9月30日付条件変更申請書について

ア、本店審査会は行なっていないのか、議事録は残っていないのか。

イ、同申請書に添付のパターン1~3は、なぜこのようなプランが出てくるのか、パターン2を選択した理由も不可解である。作成部署は本店なのか(美々津)支店なのか、作成者はだれなのか。

ウ、上記イに関し、パターンが定まっていない状態で稟議することがおかしいと考える。なおさら本店審査会等での協議検討があってしかるべきである。
第4回(平成25年2月8日)の内容
1.米良組合長挨拶
2.黒木正常務説明
「総代・組合員より本件処理について直接の問合せが相次いでいることから、作業を急ぎ、今日調査結果を取りまとめたい。」
3.要整備事項を整理し、事務局より趣旨と内容説明
②本件にかかる本店審査会の実施状況の確認
会資料も議事録も見当たらず、開催された形跡がないと結論付けた。
4.事務局より、平成25年2月8日付調査結果報告書(案)並びに 付属の別紙1の内容について、詳細に説明した。
5.最後に責任問題に関する議論について、資料3を説明した。
6.結果、当調査結果報告書を理事協議会に提出することとし、責任論については、弁護士等専門家に意見を求めた上で理事会の協議・判断に委ねることと定め、調査委員会を終了した。

調査結果報告書(平成25年2月8日)

当調査結果報告書は、正式には、5名の理事が委員となり、理事会に報告する形となっている。文書を作成したのは、実際には、調査委員会事務局を務めた日向農協職員なので、三役(組合長、副組合長、常務)の意向に沿って作成されたものと考えられる。

つまり、目的は3億円余の損失処理を理事会及び総代会で認めてもらうことだから、ある意味、責任をかわし幕引きに誘導する手段とも言える。平成25年4月27日の宮崎日日新聞に「融資の手続きに瑕疵はなかったが、今後何らかの形で責任の再検討を考える必要はあるかもしれない。」と記載された福良組合長(当時)のコメントは、そういう意味だったと考えられる。

なぜ私がそう(責任をかわし幕引きに誘導する目的だと)考えるのか?以下、調査結果報告書の内容を一部紹介する。

(3)調査の結果から

2.平成14年、19年、20年の貸出審査、破綻後の整理経過を見た中で、調査委員会が最も疑問を抱いたのは、平成14年5月21日付4億8000万円の貸付金の償還財源の一部と位置づけられた国道10号線拡幅にかかる補償金による償還は、どのような経緯で2420万円という金額になったのかという点であった。

3.まず、そもそも補償金による繰上償還は、平成16年度中に2億円を償還するというのが当初条件であって、(中略)その後、2億円の繰上償還は、平成15年9月30日付条件変更申請書の組合長決済により、担保を追加徴求することと引き換えに不要になったことが決定したとして、債務者とその旨合意し、結果、追加担保設定と2420万円の繰上償還によって取引を継続する運びとなったものである。

前記の正式な決定については、理事会に付議するのが最善であったと考えるが、当時の職制規定には必ずしも理事会決済によらずとも良いと見て取れる曖昧な部分があることから、調査委員会としては、貸出審査事務手続き上明らかな瑕疵が存在するとは言い難いのではないかと考える。

4.本件平成15,16年当時の担保評価については、評価額の適用根拠が明確でない点、先順位根抵当権の額を設定極度額で控除すべきところを債権現在額で控除している点など、問題がないとは言い難いと見受けられた。(中略)

そこで重要な位置付けとなるのが、本店審査会であるが、当該審査会の記録を探したところ、本来、審査会を実施し議事録等を保管しなければならない定めになっているにも拘わらず、資料も議事録も見当たらず、実施した形跡はない。(中略)

しかしながら、当組合の担保評価要領は、当時、明文化された規定はないため、担保評価方法そのものに関しては事務手続き上明らかな瑕疵が存在するとは言い難いと考える。

このように、調査結果報告書は、調査委員会の第1~3回に挙げられた数々の問題点を列挙しながらも、最後は、「瑕疵が存在するとは言い難い」と結論付けている
要するに、経営責任を問われないためには、「瑕疵が存在する」という結論は避けなければならないから避けたに過ぎないということである。

経営責任に限らず、通常、責任の是非を検証するためには、当事者自身及び関係者が調査するなら、客観的な検証はできず、結論は当事者自身及び関係者の意向によって誘導される。したがって、日向農協内部の人間が調査した当調査結果報告書の信頼性は低い。

それだけではない。私は、裁判の原告として当調査結果報告書を分析した結果、数ヶ所の決定的ウソを発見した。
さらに、当調査結果報告書の内容の中心は、平成15年の条件変更及び16年の繰上償還の是非となっているが、不良貸付の事実は、平成19年及び20年の追加融資にこそあるのであり、そこにほとんど触れていない理由は、経営責任を問われないため以外にはない。

内容については、第2部事件分析編で説明する。

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