日向農協モナコ観光不正融資事件裁判/フイになった2億円の繰上償還

平成16年1月19日、モナコ観光の口座には、国土交通省から2回目の補償金1億7967万円が振り込まれた。また、6月には、モナコ観光ではなく福田社長個人にも補償金が支払われることになっていた。また、モナコ観光(福田社長)は、1月26日から4月22日にかけて、6回に分けて計1億6000万円を引き出している。

さて、この時点では、2億円の繰上償還が宙に浮いたことは、執行部(業務遂行部門)内の者しか知らない。そもそも融資に反対した8名の理事を初め、回収リスクについて心配していた理事達が、繰上償還予定だった平成16年に入り理事会で相次いで質問した。

平成16年3月2日理事会で、次のようなやり取りが交わされた。

S理事「モナコ観光の融資については、国からの買収資金が入って完済することで理事会は承認した。既に終了したと考えるが、貸し出す時は十分に審議したものの、大口についてはその後の報告がまったくない。整理をしたものかどうかわからない。」に対して、M金融共済部長「立ち退きが終了し7割が回収(補償金入金)となっている。6月に回収予定である。」、川村金融担当理事「最終(の補償金入金)は来ていない。凍結(?)をしており最終清算が6月で終わる。期限において担保の評価等の見直しをするので理事会において報告したい。」

お分かりのように、M金融共済部長と川村金融担当理事は、2億円の繰上償還が宙に浮いたことを説明せずに、最終的に補償金が入金するのは6月だから、そこで回収すると答えている。しかし、予定通り2億円を回収するとは言わずに、担保の評価等の見直しをして報告すると述べている。

翌月4月6日理事会では、次のようなやり取りが交わされた。

T理事「モナコ観光の融資について、償還期限が来ていると思うが、国道10号線の拡張に伴う土地買収資金を償還に当てることで、買収金の支払いはあったと思うが、農協口座にすべてを受け入れてその中から処理を行なうということになっていたが、その後の報告がなされていない。この場でお願いしたい。」に対して、M金融共済部長「法定相続の最終調整ができていない。現在調整中である。役員については変更の計画書等をモナコ観光より徴求し審議を賜わりたいと思う。もう少し待って、全額の一括繰上げの方向となっている。」

S理事「7億円の推定額の補償金が入った時点で処理するということが理事会の承認事項であった。」に対して、M金融共済部長「全体の清算(補償金入金)はまだきていない。事業の方向転換は、企業体であり最初の内容と変わっていることはあると思う。」

引き続きS理事「理事会の貸付要項の承認と支払い状況が異なるとおかしい。内部だけの相殺をすることは、組合を私物化させることになる。理事会は理事会として尊重し変更となる場合は変更の届けを提出して再度承認を受けることが必要と考える。」に対して、川村金融担当理事「平成16年6月が国から最終的に支払われる期限であるのでその時点で適正に処理したい。」

ここでM金融共済部長は「全額の一括繰上げの方向となっている。」と述べ、一方、川村金融担当理事は「その時点で適正に処理したい。」と述べている。つまり、執行部内で見解が異なっている。

さて、実は、福良公一氏は、平成16年2月1日に参事(部長を統括する執行部門責任者)に就任していたが、この時点では、モナコ観光について答弁していない。また、平成16年4月28日、川村金融担当理事は副組合長に昇格した。私は、この直後から、モナコ観光について、川村副組合長と福良参事が実質的に決定権を握ったと考えている。

6月2日理事会では、次のようなやり取りが交わされた。

長埜金融担当理事(前美々津支店長)「報告事項として、大口融資の状況について資料に基づき説明する。さらに、モナコ観光への融資についての経過等を説明し、順調な償還の中であるが、追加で担保を徴求し、現在の残高からみて約2000万円の担保不足については、2000万円以上の繰上償還をすることで対応したい旨を述べる。」

と、突如として、2億円の繰上償還の話や3月と4月の理事会でのやり取りを忘れ去ったかのように、理事会で報告した。青天の霹靂、電光石火の出来事だった。

N理事「コンプライアンスに関する事項について、貸付の限度額、法に順じて業務を行っているのか。員外の人に貸付をしているが、員外利用制限の5分の1ということは法的に遵守しているのか説明をお願いしたい。」に対して、福良参事「員外貸付は貸付業務規定により5億円以内で融資できるものであり員外者に融資したからと言ってコンプライアンス上で問題だということにはならない。員外利用の制限は一概に5分の1というのではなく、信用事業は100分の25であり、老人福祉事業は100分の100となっている。」

沖田組合長「モナコ観光については、それでよろしいか諮ったところ、全員異議なく、以上をもって理事会を終了する。」

この6月2日理事会の青天の霹靂、電光石火の出来事は、後で紛糾の原因となった。つまり、2億円の繰上償還の話や3月と4月の理事会で答えたことが、なぜ突然帳消しにされ、変更議案として審議もされず、詳しい説明もなかったのか?これでは、理事達が「誤魔化された」「騙された」と感じるのは当然である。

平成16年6月15日、形式上理事会の承認を取り付けた(?)ので、福良参事と長埜金融担当理事がモナコ観光福田社長と会い、2000万円以上の繰上償還を提案し、合意した。

平成16年7月2日、モナコ観光は、2420万円繰上償還した。たらればの話になるが、この時、予定通り2420万円ではなく2億円を回収していたら、計算上、差額の1億7580万円の損失を防ぐことに繋がっていた。つまり、この時の繰上償還猶予という判断は、結果的に誤りだったし、後述するが、極めて杜撰な怪しいものだった。

5名の理事が、8月17日集まって、この繰上償還猶予疑惑について相談した。そして、9月6日、緊急で「モナコ観光融資関係会議」を招集した。

H理事「会議の趣旨について説明する。5月の中旬に新役員の方よりこの件についてどうなっているのか質問があっている。6月に補償金の支払があっているので今まで待っていた。(中略)執行部より説明をお願いしたく開いた。」に対して、福良参事「趣旨が理解できないが、6月2日理事会で説明しているので基本的には理解しているものと思うので、もう一度、理事会で説明した方がよいのではないか。」

H理事「6月の理事会で承認し、解決しているということか。」に対して、沖田組合長「16年6月が期限であり「適切に処理したい」と、N理事の質疑について答弁している。」、川村副組合長「6月2日の理事会に変更の旨を了承してもらっている。」

H理事「融資条件で実行されていない。内容は国道の補償金で一括償還されるが、今までに変更していない。現・新理事にも通知がなく、執行部で(勝手に)行なっているのではないか。」、更にI理事「担保が足りないということで、文書を取り交わして、足りない分は繰上償還するということではなかったのか。」に対して、長埜金融担当理事「現在2回にわたり補償金が入っているが、相続の関係で以降はまだない。(中略)15年9月に条件の変更を行った。利息収入の面で経営効率を図った。一部繰上げをしなくても通常償還で良いのではないかと判断した。(中略)時期がずれたが、6月2日に提案をした。(中略)正常案件として問題なく、条件変更の手続きの誤りとして、お詫び致したく、今後の保全管理には十分注意して参りたい。6月2日現在の貸付残高4億2315万円、担保評価額4億359万円、担保不足額1950万円だったが不足分は移転補償金で一括償還している。」「条件変更の手続きを平成15年9月に行なっていた時に、理事会に報告しなければならなかったと考える。」

福良参事「議案もしくは報告にしていたが、後日協議で理事会にて審議したい旨を協議していた。また、当初の担保不足について「補償金はあてにならないのではないか。」という意見もあった。理事会審議の時点以上に追加担保を徴求している。」

H理事「条件変更についてどのようにしたのか。」に対して、長埜金融担当理事「平成15年9月に美々津支店で協議し、平成15年10月に優先順位が決まった中で、担保の不足額を繰上償還することで条件変更し、本店との間で決定した。」

H理事「反対の理事が8名いた。事業の内容はパチンコ店である。1店を閉鎖して、事業規模が縮小しているのに支払いは15年で行なうことに対して理事は反対ではなかったか。川村金融部長が繰上償還を強調し、信用して、スッキリしない決定であった。後の補償金は、1億円余の補償金はどこに行ったのかはっきりしていない。」に対して、福良参事「当時の理事会については、15年である。償還は補償金の一部のものである。2番抵当であったが、担保の不足額のみ償還することとしたものである。」

K理事「当時の理事会では、補償金の2億円が入ることを前提として融資を実行したことではないか。悪い方を取れば、4億円の融資が不良債権となればどうなるのか。移転補償金の2億円が入ることを条件にしていた。」、H理事「バブル崩壊当時の不良債権と現在の景気状況とでは債権の意味が違う。2億円の償還を信用して承認した。不良債権となった時が心配される。」に対して、福良参事「「補償金がでてもあてにならない。」「担保が必要だ」という意見が多数であった。担保の問題ではなかったのか。」

H理事「補償金が入ることが融資の条件ではなかったのか。(中略)将来のモナコ観光の経営が問題である。」に対して、長埜金融担当理事「4億8000万円の融資は、補償金の問題ではなく、担保不足の面に問題があった。担保が充足したので不足分を補填し、融資条件変更したことを理事会に報告しなかったことは執行部のミスであったことをお詫びしたい。」

H理事「モナコの融資については、執行部は役員(理事)をなんとも考えていない。帳尻を合わせている。順序が違っていた。勝手のいい時は承認し、勝手に変更している。」、K理事「補償金の説明が不十分であったのではないか。補償金にて全額償還するのか、一部償還するのか不明確であった。」、H理事「2億円の移転補償金と2000万円の償還と話が違う。融資するときの説明と話が違うのではないか。」、H理事「条件変更が簡単に組合長の決済で行なうことが問題である。職制規定上のことであればおかしい。」、K理事「組合員への漏洩が懸念される。」、H理事「この問題は、農協から組合員に漏れないようにお願いしたい。」、H理事「パチンコ屋に融資していること自体が問題である。内部でこれ以上広がると大きな問題になる。」、H理事「2億円を何とか償還すれば理事会でも問題ないと考えるが、執行部として努力してもらいたい。報告をお願いしたい。」に対して、沖田組合長「約定償還の16年度までにとあるので、2億円については、まだ期限がある。償還の努力をお願いする。」

このように、9月6日の「モナコ観光融資関係会議」は、大いに紛糾した。つまり6月2日理事会の2億円繰上償還を猶予して、十分の一の2000万円以上繰上償還するという条件変更に対して、真っ向から異議が唱えられた。こうして、最後は、フイになった2億円の繰上償還について、一旦は振り出しに戻った。

私は、議事録を読み進む内、あることに気づいた。それは、福良参事が、2億円の繰上償還という融資条件の問題を、さかんに担保不足の問題に摩り替えようとしていることであった。お分かりだと思うが、「問題の摩り替え」というテクニックは、本来の重要問題から目を逸らし、違う要素に目を向けさせることで、不正や誤りを隠すやり方である。

また、「担保は充足したので問題はなくなった」というロジック自体も、直感的に「怪しい」と感じた。裁判所に行って資料を閲覧した直後、まだ提訴することを考える前だったが、私は独自の調査をして、担保充足どころか、大幅な担保不足であることがわかった。

つまり、大幅に担保評価をかさ上げして、充足しているかのように見せかけていたのである。詳しくは、第2部事件分析編で説明する。

3日後の9月9日理事会では、次のようなやり取りが交わされた。

H理事「原点に帰ってみると、2億円を繰上償還する約束を破っていることが役員(理事)会を無視したことになる。(中略)ただ帳尻だけを合わせただけのもの。役員の皆さんは納得いかない。(中略)執行部はもう一度検討して、1から説明をお願いしたい。答えは待ちたい。」、N理事「7億円の国土交通省から補償金が出た時に払う。という条件で貸したのではなかったのか。現川村副組合長より「平成16年6月に国が最終的に補償金を支払うからこの時点で訂正に処理したい」と述べている。適正にするということは払ってしまうということではないのか。(中略)国土交通省からの補償金が出ていると聞くが、どうなったのか、どうして取らなかったのか」に対して、福良参事「要は当初の融資条件の中で補償金から2億円を入れるというものが守られていないことである。理事会に報告、ないし附議しなければならなかったが、このことが遅れていた理由としては、はっきり言って、本支店間のズレがあった。それが今年4月6日の理事会の時にどうなっているのかという質問があり、答弁ができなかった。そこで気付いて、改めて6月2日に組合長から資料提出し報告をした。それを基に担保不足である2000万円については、7月2日に入れてもらい、担保内にとどまった。」

K理事「審査会の中でどういう風なことをおこなっているのか我々も分からない。」に対して、長埜金融担当理事「モナコ観光についても、要領に則って、順序よく処理されている。(中略)通常5000万円を超える案件については、本店の審査会を開催し、そこで組合長以下、各部長により可否を諮る。1億円以上は、金融総務委員会に諮り、理事会で審議し決定するということで段階を踏んで決定する。」

ここでも、福良参事の論点をずらすテクニックが発揮されている。この人のコメントは、抽象的な表現を交えて論点をずらす、事実の解釈を変えて真実を隠蔽する特徴がある。つまり、「本支店間のズレがあった。」とは、何のことかわからない。ここで一度論点をずらす訳である。

次に、「答弁ができなかった。」と言っているが、事実はそうではない。2億円の繰上償還が実行されていない状況を踏まえて、M金融共済部長は「全額の一括繰上げの方向となっている。」と述べ、一方、川村金融担当理事は「その時点で適正に処理したい。」と述べたのだ。つまり、6月に最終の補償金が入金されたら、繰上償還の対応をすると答弁している。「答弁ができなかった。」というコメントは、明らかに事実と異なる。

さらに、「担保内にとどまった。」というコメントは、2億円の繰上償還が実行されていないという貸付条件不履行の話は、担保内にとどまったことで問題ではなくなった、という解釈を示すものである。福良コメントの威力が如何なく発揮された場面である。

このように9月9日理事会では、明確な結論は出ず、1ヵ月後の10月5日、理事・監事協議会が行なわれ、次のようなやり取りが交わされた。

I監事「調査報告について述べたい。平成14年月9日資料不十分で継続審議となる。14年5月15日理事会決定。融資額が大きい、担保不足であるとの議論がなされた。10号線の用地買収による補償金のうち2億円を繰上げ償還することで、担保不足は解消するため、反対理事が8名いたが、融資が承認された。(中略)調査の結果、延滞は発生しておらず、貸付残高も担保は充足している。条件変更の組合長決済があったが、理事会に協議されていない。不適切な職制規定に則らない手続きの誤りがあった。」に対して、H理事「執行部が行き先行き先に蓋をしていくのに不信感を感じる。(中略)8月17日に理事5名と池田元組合長で話をした。2億円の繰上げ償還を求めて、散会した。」、さらに、I監事「要するに、当初の約束どおり2億円の一括償還があれば、もしくは、条件変更が理事会に審議して適性に処理されていればこのような問題はなかった。事務手続き上の間違いがあったと思う。融資は段々減ってきている。信用事業の収益はほとんどが融資である。融資は両刃の剣であり、収益は上がるがリスクを伴う。リスクを防いで伸ばす工夫が必要であり、今後は、十分その点に対応して、収益の確保に努めてもらいたい。」

N理事「条件変更の申請書についても、かなりの日数を経て報告がなされている。2億円がいつの間にか消えてしまっている。繰上げ償還が消えて、2000万円に変わっている。」

沖田組合長「過去のことを反省しながら二度と起きないように、慎重に事業展開したい。事務手続き上の誤りであり、今後不良債権にならないように注意を払って行きたい。」

さて、一連のやり取りから言えることは、結局、慎重派の理事と執行部の認識のギャップは埋まらなかった。執行部は、このギャップの理由を、条件変更を理事会に審議しなかったという事務手続き上の誤りと結論付け(誤魔化し)て、2億円の繰上償還の猶予(危険な融資の継続)を既定事実とした。そして、担保のかさ上げによってその正当化を図ったのだった。

振り返れば、将来の巨額損失は、この時決まっていたのだ。

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