日向農協モナコ観光不正融資事件裁判/4億8000万円貸付

平成14年5月21日、日向農協はモナコ観光株式会社に4億8000万円を貸し付けた。
契約書の条件は、年利2.7%(変動金利)、最終償還日は平成29年5月20日、年2回で15年間計30回、各1600万円の返済である。

しかし、添付された「年間資金計画表」を見ると、平成16年に2億円をプラスして繰り上げ返済し、平成17年以降は、年2017万円の返済計画となっている。

この時の理事会決議は、平成14年5月15日に行なわれている。
また、理事会で使用した資料には、根抵当極度額5億7000万円に対し、担保可能額3億3560万円(不足額2億3440万円)だが、平成16年10号線拡幅買収移転補償金により2億円を繰上償還し、平成16年度までに計2億9500万円を償還する予定と記載されている。

理事会のやり取りを拾ってみる。

N理事「この案件は担保不足であるが、監事の意見を求める。担保不足の貸付は責任問題になる。」に対して、川村金融共済部長「平成16年度に補償金が出れば繰上償還するので、後は担保物件が十分かどうなのかで判断したい。」

M理事「常勤理事がはっきりした姿勢でなければ賛成しかねる。」に対して、川村金融共済部長「本件は大丈夫だろうということで、議案として提出している。」

T理事「担保不足を補償金で補い、かつ一部繰上償還の計画もある。内容については、審査会で十分に検討されているはずである。」に対して、川村金融共済部長「貸付に絶対安全なものはない。」

K理事「採決の前に、執行部の方針を明確にすべきである。そうでなければ、非常勤役員にも戸惑いがある。」に対して、池田組合長「金融共済部長の説明の通り、回収は可能だと審議してきた。他に意見がなければ採決を行なう旨を告げる。
その結果、8名を除く理事全員の挙手により承認されたので、原案通り可決された。」という具合だ。

私は、初め、契約書と契約条件、この理事会議事録を読んだ時に、補償金を原資とした2億円の繰上償還が予定されているから、こうもあっさり4億8000万円もの融資が決定されたのだと思った。
つまり、この平成16年の2億円の繰上償還は、不可欠な契約条件だった。いや、100%だれもがそう思う筈である。


条件変更申請書

平成15年9月26日、日向農協に、国土交通省から同内容の2通の文書が来た。
タイトルは「公共事業に伴う抵当権等権利付土地等の買収のお知らせ」とあり、「貴組合が根抵当権を設定している下記の土地が、国土交通省起業一般国道10号改築門川日向拡幅工事に必要な土地となり、国土交通省と土地所有者において土地売買契約の締結を予定しています。(中略)事業の円滑な執行等をご賢察の上、ご協力をお願いいたします。」と続いている。買収する土地は、日向市財光寺208番地1と209番地1。

そこで、モナコ観光は、日向農協に平成15年9月30日「条件変更申請書」を提出した。
国土交通省と土地売買契約を締結するためには、根抵当権を抹消してもらう必要があるからである。日向農協としては、当然抹消後の担保不足相当額を繰上償還してもらわなければならない。貸付時の条件である。

「条件変更申請書」の支店意見欄には「(補償金は)平成15年10月末までにJA口座に振り込まれます。貸付金充当(繰上償還)額については、今後協議します。」とある。
また、本店意見欄には「繰上償還額については、下記3パターンにて後日協議いたします。(10/10美々津支店協議)」とある。

つまり、この「条件変更申請書」には、根抵当権を抹消することは記載されているが、融資条件の2億円が繰上償還されることは記載されず、繰上償還額については協議事項となっているのだ。

この時、川村嘉彦氏は金融共済部長から実務のトップである参事に昇格している。
また、「条件変更申請書」には、「10月8日付の貸付決定印」(組合長印)が押印されている。

いずれにしても、4億8000万円を融資した時の条件であった2億円の繰上償還は、いつの間にか執行部内で「協議事項」に変更され、池田組合長の決済を取ったことになっている。

そして、10月10日、美々津支店で協議が行なわれた。この時協議された3パターンとは、11月20日時点での償還残高4億3771万円に対して、パターン1「1億7983万円を繰上償還して、償還残高2億5788万円(残担保力も同額の2億5788万円)とする案」、パターン2「繰上償還額0円(償還残高4億3771万円のまま)で、他金融機関分を繰上償還してもらう(残担保力4億5800万円)案」、パターン3「繰上償還額2771万円(償還残高4億1000万円)で、他金融機関分を繰上償還してもらう(残担保力4億1000万円)案」

10月17日、モナコ観光の口座には、国土交通省から4億1923万円の補償金が振り込まれた。
そして、11月6日5000万円、11月20日3000万円、合わせて8000万円が口座から引き出されている。

美々津支店は、11月26日、モナコ観光福田社長と相談した。福田社長の回答は「曽根店改装に3億円必要なので繰上げには応じられない。」だった。この時口座残高は3億1181万円。

この後、モナコ観光の口座から、12月19日1億6000万円、12月26日4000万円、計2億円が引き出されている。11月の8000万円と合わせると2億8000万円である。

因みに、福田社長は「曽根店改装に3億円必要」と言っているが、私が財務諸表を分析すると、平成15年に設備投資に当てられた金額は2億3000万円だった。そして、平成15年12月末の口座残高は7098万円になっていた。

いずれにしろ、貸付時の条件であった2億円の繰上償還の話は、突如として宙に浮いてしまった。この宙に浮いた繰上償還の話は、翌年の平成16年に大いにもめることになる。
そして、この時2億円の繰上償還をさせなかったことが、最終的に日向農協に巨額損失をもたらした。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク