第2章 デフレ不況に見る日本社会の問題 2非正規雇用

この20年間の日本社会を特徴づけ、日本社会そのものだと言ってもよい代名詞、それは、デフレ不況と格差社会である。また、デフレ不況と格差社会という忌まわしい悲劇の主人公が非正規雇用である。

それぞれの国の歴史には、永遠に忘れられない、歴史に刻まれて消すことのできない悲劇が存在する。日本であれば、その代表が敗戦であり、広島、長崎の被爆であるが、私は、平成のそれは、東日本大震災ではなく、実は、非正規雇用であると考えている。生々しい現実及び統計データが、何より物語っている。

われわれ日本人は、まず、それを直視しなければならない。

ご覧いただける通り、実質的なバブル崩壊のスタートである1990年から、現金給与も右肩下がりの軌跡を描いた。失われた10年という言葉があったとおり、その後10年間は、日本経済はバブル崩壊の後遺症に苦しんだが、橋本内閣は、その苦しい中で、1997年消費税を3%から5%に上げた。経済はますます冷え込み、現金給与は、とうとうマイナスに転じた。

   

調度この頃、人件費削減に動く企業が増え始めた。統計でも確かめられるように、1994年971万人20.3%だった非正規雇用者は、まるでバブル崩壊不況を乗り切るためのメインエンジンかのように、自民党の法整備という支援を受けながら、経営の主要政策に格上げされ、日本経済の定位置を占めた。

その結果、21年後の2015年には、1980万人と人数で倍増以上、率にして37.5%まで上昇した。(その後の統計で、2018年2120万人、37.8%と増え続けている。)

これによって、日本社会は、格差が急速に拡大し、自由主義経済の病的症状と言える、極めて不健全な階級社会になってしまった。

   

資料でご覧頂けるとおり、25歳以上50歳未満の男性の有配偶者率、つまり、既婚率を見ると、非正規雇用者は正規雇用者のほぼ半分以下である。それもその筈、右側の一人当たり平均給与を見ると、正規526.6万円に対し、非正規224.5万円と、何と金額で302.1万円、2.35倍の差がある。

それだけではない。下の資料を見ると、教育訓練実施率も、非正規雇用者は正規雇用者のほぼ半分、社会保険付与も6割、退職金8分の1、賞与3分の1となっている。

これでは、非正規雇用者は、家庭を持てず、将来に希望も持てず、趣味やレジャーを楽しむことすらできない。これでどうやって充実した人生を送ることができるのか。

さらに深刻なのは、44歳までの若年層における非正規雇用率がほぼ30%に達し、未婚化に拍車がかかっていることである。ただでさえ、少子高齢化の影響による人口減少と出生率の低下に苦しんでいるわが国で、これは最早致命的、これ自体が国難と言える。まさに、非正規雇用者の増加が、日本人の生活と幸福を、日本社会を、破壊している現実を示している。

2010年度の厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」によれば、一般労働者派遣事業の「派遣料金」の平均は1万7096円で、派遣労働者に支払われる平均賃金は1万1792円。これから計算すると、事業者の利益率は約30%である。つまり、派遣労働者は30%もピンはねされていることになる。

また、民間ばかりか、お役所までが率先して非正規雇用を増やすようになったきっかけは、2005年の小泉政権が打ち出した「集中改革プラン」である。同プランを推進する総務省で、当時、総務大臣を務めていたのは、同プランの恩恵を最大限に享受する労働者派遣業大手、パソナグループの現会長竹中平蔵である。以降、全国の自治体で、正規公務員の採用枠を減らす一方で、非正規公務員の数を激増させた。

小泉政権の旗印は、「聖域なき構造改革」(民営化と規制緩和)だった。そして「非正規雇用」システム導入の裏付けとなったスローガンが「規制緩和」であり、その結果、労働者の4割近くが非正規雇用という非人道的状態へと追い込まれた。

言っておくが、これは、過去の政策批判が目的ではない。現代日本社会の悲劇を一刻も早く解消しなければならないという、緊急提言である。

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