日向農協モナコ観光不正融資事件裁判/経営破綻

平成24年3月29日付の「財産状況報告集会における破産管財人の報告書」(破産管財人弁護士大迫敏輝)から一部引用する。

「ひょっとこ苑は、代表者の妻が名目上の取締役に就任し、福祉の専門家に代表者になってもらって経営を任せていたところ、開業前の見込みと異なり、オープン後も収容定員一杯となることがなく、「ひょっとこの湯」の利益で「ひょっとこ苑」の損失も賄う必要に迫られ、平成18年は約22億円あった売上高が平成20年には約9億円まで落ち込んだ破産会社の資金繰りは急速に悪化し、代表者は、破産会社のみならず家族の生命保険を解約したり、知人から借入をして事業資金を工面していった。

平成21年3月、総務部長(兼監査役)から幹部の給料未払いや取引先への多額の未払いがあり、破産会社の経営が危機的状況であることを聞かされた代表者は、宮崎市内の弁護士に相談したが、手形は不渡りにせざるを得ないという結論に至り、同年4月末、一回目の不渡りを出した。

その後、「ひょっとこの湯」を継続することを前提に再生計画を立て、5月中旬に債権者説明会を開催し、長期の分割支払いの提案を行なったが、一部の債権者の了承を得ることができなかった。

そこで、破産会社は、「パチンコMAX」を5月末に廃業し、同年6月1日に二回目の不渡りを出した。」

後述するが、一回目の不渡りは、平成20年12月10日に7200万円を融資してわずか140日後のことだった。

さて、日向農協は、一回目の不渡り後、5月1、14、19日の3回モナコ観光総務部長と面談、5月8日高鍋信用金庫と鹿児島銀行を訪問、5月20、29日の2回日本政策金融公庫を訪問している。

また、5月25日総務金融委員会を開催している。議事録を見ていないので、具体的に何が話し合われたかはわからないが、当然、債権の保全策についてになる。
そしてその内容は、パチンコ以外の事業(「ひょっとこの湯」「ひょっとこ苑」「WASH HOUSE」)の実効支配もしくは取得を目的としていたと考えられる。
日本政策金融公庫への2回の訪問目的は、日本政策金融公庫のモナコ観光債権6742万円を代位弁済し、「ひょっとこ苑」が建設された日向市北町の土地の抵当権1位を取得するためだった。

6月2日理事会第6号議案には、保全策としてそういう内容が含まれていた。理事会では、次のようなやり取りが交わされた。

川村組合長「北町の土地を1番にし、なおかつ介護施設用地の所有権を移転するということである。」、T金融共済部長「介護施設(ひょっとこ苑)ならびに債務者法人(モナコ観光)については、平成20年8月25日に介護施設の株式会社を登記設立している。
平成20年12月10日に事業設備資金として7200万円融資しており、現在7165万円の残高がある。この時に建物を建設するということで建物に担保設定したが、下の土地が債務者(モナコ観光)名義になっていたので、今回介護施設(ひょっとこ苑)名義に変更してもらった。」

K理事「介護施設の経営者が変わり、土地は日本政策金融公庫に代弁して、介護施設は別の会社が経営するというのであれば、日向農協が介護施設を経営したほうがいいのではないか。考えられないような融資(6742万円の代位弁済)の提案である。」、
M理事「介護施設に資金を融資した覚えはないが、いつ融資したのか。」に対して、
福良監事「監査指摘で11月26日の資料を出しなさいと指摘している。その時(平成20年11月26日)の理事会で、1号議案、2号議案が否決され、3号議案を追加提案したが資料はなかった。(中略)考え方によっては、介護施設の運営法人に当理事会は融資を決定してはいない。県に介護施設に融資したと報告している自体も問題ではないのか。(中略)資料が整備されているのであれば、その資料を出して話をした方がいい。」

S理事「資料はあるのか。介護施設の社長は雇われ社長なのか。」に対して、中田常務「資料の提出は後でするが、報告はしたと思う。」

福良監事「11月の理事会の内容が分からないのであるから、資料を提出すべきである。」「県に提出した資料では介護施設に7200万円の融資となっている。さらに債務者法人(モナコ観光)に2000万円融資となっているが、これは第2号議案で否決された案件である。(中略)理事会の議事録内容は7200万円を融資することしか決まっていない。県に提出している資料は7200万円と2000万円の9200万円となっており、介護施設が債務者として出てきていないので、資料を整備するよう指摘していた。」

M理事「この提案は債権を保全するための提案なのか。」に対して、川村組合長「そうである。(中略)介護施設は延滞なく償還中であり、債務者法人が不渡りを出して厳しい状況になっている。今回提出した保全策(6742万円の代位弁済)が1番いい方法ではないかということで協議をお願いしたい。」

福良監事「11月26日開催の議案第3号について1度結論を出した方が良いと思う。」に対して、川村組合長「今回提出している11月26日開催の議案第3号について認めてもらい、今後の保全策をどうするかということで取り扱わせていただきたい。」

川村組合長「深く反省し、内容について十分審議し、資料についても提出していきたい。K理事が言われたとおり同意を得たということでよろしいか。」「異議がないということで、7200万円の融資は介護施設である。M理事の(質問の)件については、日本政策金融公庫に支払い(代位弁済)をして、1番抵当になって今後買収の話をするということでしていただきたい。」「日本政策金融公庫に代位弁済して、1番として任意で売った方がいいのではないか。(中略)保全を早めにしておいた方がいいのではないかという提案である。」

S理事「介護施設については現在延滞していないが、今後大丈夫なのか。」に対して、川村組合長「大丈夫とかは言えないが、今後償還してもらえば、JAが担保を取っているので、仮に倒産しても被害が少なくなると解釈している。」

川村組合長「(他に)意見がなければ議案の採決を行う旨を告げる。その結果、第6号議案の保全策は、5名の理事が反対し、その他出席理事全員の挙手により承認されたので、原案通り可決された旨を告げた。」「議案第6号の回収方策について質疑を求める。」

福良監事「このままでいれば貸倒損失が1億円以上になることも予想されるが、それを少なくするための保全策、回収策であると思う。(中略)既に第1回の不渡りが出て1ヶ月も経過しているのにこういう状態というのは問題である。数字的なものが提出されていないのでなかなか理解できない」

やり取りからわかるように、本理事会は、モナコ観光が4月末、一回目の不渡りを出して初めての理事会のようだが、その割には危機感に乏しい。
それどころか、平成20年12月10日に7200万円融資した際の11月26日理事会決議において、融資先がモナコ観光ではなくひょっとこ苑だったことを改めて説明している。

M理事の「介護施設に資金を融資した覚えはないが、いつ融資したのか。」という質問は一体何を意味するのか?また、福良監事は「監査指摘で11月26日の資料を出しなさいと指摘している。その時(平成20年11月26日)の理事会で、1号議案、2号議案が否決され、3号議案を追加提案したが資料はなかった。」と述べている。
やはり、資料を配付していなかったのだ。

融資先の説明もせず、資料も配付せずに7200万円の融資を議決したのか?しかし、11月26日議事録を見ると、確かに、冒頭S金融共済部長「資料に基づき説明する。」と述べている。
この点については、「資料はなかった。」とする福良監事の言葉と完全に矛盾するが、福良監事の言葉の方を信じるべきだろう。仮に資料があったとしたらそんな正反対のセリフは出て来ない。
つまり、議事録は、実際には配付していない資料を配付したかのように見せかけたのだ。

さらに、理事会で否決された2号議案(モナコ観光への2000万円短期貸付)を勝手に実行したことについては、理事に依然として隠している。
実は、後に県の監査でこれらの不正を指摘され、川村組合長は知事宛に「改善報告書」を提出している。一言で言うと、正常なガバナンス(統治)が機能していない状態だった。詳細については、第2部事件分析編で説明する。

保全策の話に戻ると、日向農協が目指した保全策とは、日本政策金融公庫のモナコ観光債権6742万円を代位弁済して、パチンコ以外の事業(「ひょっとこの湯」「ひょっとこ苑」「WASH HOUSE」)の実効支配をすることによって、回収を図る考えだったようだ。

しかし、余りにも楽観的過ぎると言わねばならない。日本政策金融公庫に代位弁済したとしても、高鍋信用金庫の借入残高が1億6148万円あり、高鍋信用金庫が1番抵当の不動産が評価額で約2億3000万円あった。
高鍋信用金庫にすれば、担保物件を70%で売れれば回収可能である。経営の将来予測が不透明であるのに、長期的に回収を図ることは考えない筈である。

一方、日向農協は、この時点で、モナコ観光とひょっとこ苑合わせて4億3339万円の残高があった。「このままでいれば貸倒損失が1億円以上になることも予想される」という福良監事の見通しは、まったく厳しい現実を見ていなかったことを示している。福良監事ですらこの調子だから、川村組合長以下の執行部は、さらに甘い見通しだったと考えられる。

そんなこととは知らずに、理事会では、厳密な根拠のない6742万円の代位弁済という蛮勇がまたもや承認された。そして、日向農協は、理事会の翌々日6月4日、早速日本政策金融公庫に6742万円の代位弁済をした。

したがって、平成21年6月4日現在の貸付残高は、代位弁済額6742万円がプラスされ合計5億81万円だった。

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