日向農協モナコ観光不正融資事件裁判/平成20年ひょっとこ苑融資

「モナコ観光の経営状況」で説明の通り、モナコ観光の売上は、平成19年14億9574万円(前年比31%減)、20年8億8062万円(前年比41%減)と激減する。

経営悪化のスピードは、予想を上回るものだったと考えられる。言葉は良くないが、モナコ観光に残された逃げ道は、パチンコを廃業して、兼業で経営していた「ひょっとこの湯」でどうにかしのいで行くことだった。しかし、多額の借金がある。何か他に現金収入がないと再建は無理である。

藁をもすがるつもりで、平成20年8月25日、モナコ観光は、小規模多機能型介護サービス事業所「株式会社ひょっとこ苑」を設立した。遊休地として保有していた日向市北町の土地に、介護施設を建設して運営する計画だった。

介護事業の経験者を採用して、9月10日、「地方再生事業計画認定申請書」を宮崎労働局に提出した。
驚いたのは、補助金がいくら出たのか知らないが、申請から6日後の9月16日には、認定通知書が発行されていることだった。
わずか数枚の申請書類と計画書などの資料だけで認定される訳だから、粗製乱造とはこのことだ。補助金詐欺が横行するはずである。

介護事業を始めるには施設が必要である。設計事務所が作成した建築見積書を見ると、木造1階建て263.25㎡(79.8坪)6002万6400円となっている。
坪単価75万円。設備、仕様からして、ほぼ標準的建築単価の倍の金額である。

さて、モナコ観光は、当初、必要な資金7000万円の新規借入を日本政策金融公庫に申し込んだ。
日本政策金融公庫の貸し付け条件は、現在抵当権順位1位高鍋信用金庫、2位日向農協である福田社長の自宅土地1039㎡(315坪)と建物313㎡(95坪)の順位を、1位日本政策金融公庫、2位高鍋信用金庫、3位日向農協に変更するというものだった。

問題はそれだけではない。モナコ観光は、平成20年11月17日現在、日向農協への返済金2回分(元金308万円+利息132万円=440万円)の延滞があった。
さらに、11月28日に決済をしなければいけない手形が426万円あった。
したがって、11月末には、日向農協への返済金3回分660万円+426万円=1086万円が最低でも必要である。
モナコ観光からは、短期資金として2000万円の融資申込があった。

平成20年11月25日、手形決済日のわずか3日前、3役(川村組合長、尾形副組合長、中田常務)、金融共済部長、課長2名、計6名で本店審査会が開催された。
11月28日に1ヶ月の予定で2000万円を融資することを話し合った。
回収資金は、モナコ観光が日本政策金融公庫から借入れる予定の介護施設建設資金7200万円である。検討の結果、翌日26日の理事会に議案として提出することになった。

この時期くらいから、もう支離滅裂である。まず、延滞金を解消するために追い貸しする。回収資金は、日本政策金融公庫で稟議中の融資7200万円。しかも日本政策金融公庫が要求している抵当権の後順位変更は、高鍋信用金庫も日向農協も容易に応じられることではない。
さらに、7200万円から2000万円を回収したら、介護施設建設資金6000万円の支払額は不足する?何から何まで無理だらけの案である。

平成20年11月26日理事会議事録には、議案第1号「大口融資先(モナコ観光)に係る抵当権順位の後順位への変更について」、議案第2号「定款第55条にかかる貸付(モナコ観光2000万円)について」、議案第3号「定款第55条にかかる貸付(モナコ観光7200万円)について」とある。

理事会では、次のようなやり取りが交わされた。

K理事「延滞の原因は何なのか。」に対して、S部長「事業売上に対して月の支払が厳しい。」

Y理事「(2000万円の決済資金)貸付を行うこと自体反対であるが、償還は間違いなくされるのか。」に対して、
中田常務「(日本政策金融公庫から7200万円の貸付が)実行されたら即回収する段取りにはなっている。」

M理事「反対である。延滞案件が理事会に上がってくることが間違いと思う。」に対して、
S金融共済部長「2000万円貸付を行うが、延滞利息を差し引いて振り込むということであり、回収については2000万円を回収することになる。」

T監事「抵当権順位3番になると1億円の担保がなくなるので、もう少し説明をお願いする。」に対して、
福良監事「(日本政策金融公庫の7200万円貸付条件である抵当権順位繰下げに関して)JAが貸付を行うことにすれば担保力も余り減らずに問題もないのではないかと思う。」、
Y課長「直近の手形決済が28日である。日本政策金融公庫については課長までの決裁はもらったが、高額であるので支店長を交え再度検討を行うため遅くなっているとのことであった。JAが貸付を行った場合の説明を行う。」

K理事「執行部としては、この方法(日本政策金融公庫の代わりに日向農協が7200万円を融資する)がいいということであるのか。」に対して、
川村組合長「緊急にこの提案を受け入れてやった方がいいのではないかということである。」

K理事「1号議案、2号議案の採決を行なって、腹案(3号議案)を協議すべきであると考える。」に対して、
川村組合長「議案の採決を行なう旨告げる。その結果、第1号議案、第2号議案は出席理事全員の反対により、原案は否決された旨を告げた。」

引き続き、川村組合長「議案第3号について質疑を求める。」

S理事「条件等はどうするのか。」に対して、川村組合長「日本政策金融公庫と同条件で考えている。」

S理事「相手(モナコ観光)と話し合ってからでないと進まないのではないか。」に対して、中田常務「28日の手形の関係も視野に入れて審議して頂きたい。2000万円を28日に融資して、次回の理事会で審議する方法はどうであろうか。できれば7200万円を決議して頂きたい。」、
福良監事「今日は、手形の関係もあるが、日本政策金融公庫関連の7200万円の結論が欲しいということで緊急の理事会を開催したと思う。ですから協議されて結論を出した方がいいと思う。」、
中田常務「既貸付分を回収して行くことも考えなければならない。相手方と連携して取り組んでいきたいと考えているので、決定の方をよろしくお願いします。」、
川村組合長「原則として7200万円で日本政策金融公庫と同条件で貸付を行いたい。意見がなければ議案の採決を行う旨を告げる。その結果、第3号議案は3理事が反対し、他の出席理事全員の挙手により承認されたので、原案通り可決された旨を告げた。」

さて、ここまで来ると異常としか言いようがないが、日向農協は、日本政策金融公庫が稟議中の融資7200万円を、理事会で勝手に日本政策金融公庫に代わって融資することを可決したのだ。
しかも、この話は、借主であるモナコ観光とも何も話していない。モナコ観光が融資の申込をしていたのは、あくまで日本政策金融公庫である。

また、第3号議案の議決には、客観的に疑わしい点があった。それは、理事会資料が配付されていなかったのではないかという点である。
なぜなら、議事録に、担保等保全の論議が欠落している。ひょっとこ苑の建設地(日向市北町)の根抵当権1位は日本政策金融公庫である。その上に建設する建物だけで建築価格を1000万円以上上回る借り入れ金の担保が充足する筈がない。
後述するが、実際に、この時担保は大幅に不足していた。私の計算で2億2140万円、日向農協自身の計算でも8407万円の不足だった。恐らく、資料を配付せずに、決議したものと考えられる。

もうひとつのポイントは、モナコ観光から申込を受けていた短期資金2000万円については、理事会で否決されたことである。

翌々日の11月28日、「第3号議案の融資条件等確認に係る会議」が、尾形副組合長、中田常務、金融共済部長、課長計4名で行なわれた。川村組合長は、この日出張だった。

結論を簡単に説明すると、日向農協は、7200万円の融資条件を、抵当権順位2位の土地2箇所の1位への順位変更することなどを条件として設定し、11月28日午前中、その内容を貸出条件の「覚書」風の文書にしてモナコ観光へ持参して、福田社長と総務部長の署名捺印をもらい、午後には、理事会で否決された第2号議案2000万円の短期融資を実行した。

さらに、12月10日、7200万円の融資を株式会社ひょっとこ苑に実行し、ひょっとこ苑からモナコ観光の口座に2000万円を振り替え、短期融資2000万円の回収をした。

恐るべしウルトラCだが、通常の金融機関では絶対にあり得ない荒業と言える。
回収リスクの慎重な検討もなく、まさに、ノーブレーキで貸付に突っ走る、後は野となれ山となれの蛮勇とはこういうことを言うのだろう。
「モナコ観光が倒れたら責任を問われるので、とにかく避けたい。」その一心だったに違いない。

しかし、破綻は時間の問題であり、こうして日向農協は、巨額損失を自ら膨らませていった。

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