モナコ観光不正融資事件の真相!第10話「判決前報告その3尋問検証」

第3 尋問検証

1 2億円の繰上償還の扱いについて

(1)平成15年10月8日「条件変更申請書(乙4)」で決裁されたのは、2億円の繰上償還の免除ではなく、本店意見欄に記載された3パターンの内のいずれかで対応することの承認だった。川村氏は、さかんに、国道の拡張に伴う担保設定抹消の条件申請であるとの認識を述べているが、決裁印は支店及び本店意見欄に押印されている。

それを受けて、平成15年10月10日美々津支店で協議され、その内容が「美々津支店融資協議議事録(乙18の1,2)」である。そして、平成15年11月26日にモナコ観光社長と協議したところ、「曽根店に多額の改装費用(3億円)がかかったから、繰上償還はできない。」と言われ、平成16年1月に約2億円の補償金入金予定があることから、継続協議事項とした。つまり、この時点で3パターンの内必然的にパターン1だけ残っていたことになる。

(2)ところが、平成16年1月19日に約1億8000万円の補償金が入金されたが、1月26日から4月22日の間に1億6000万円出金された。つまり、美々津支店計算の約1億8000万円の担保不足はそのまま放置された。

だから、平成16年3月2日及び4月6日の理事会における宮内金融部長と川村理事の6月に一括償還する旨の苦し紛れの答弁が出てきた訳だ。福良氏に、いつの時点で担保不足が解消できているとの認識がされたのか尋ねると「15年の9月から平成16年の4月の理事会までの間」という奇妙な供述をしたが、具体的な根拠は何もない。そして、宮内金融部長と川村理事の6月に一括償還する旨の苦し紛れの答弁について、「ちょっと分かりません。この人たちの言っている意味もちょっと分かりませんので。」と言い逃れるしかなかった。

この点について、平成16年9月9日理事会において福良氏は。「今年4月6日の理事会の時にどうなっているのかという質問があり、(宮内金融部長と川村理事が)答弁ができなかった。そこで(繰上償還が放置されていることに)気付いて、改めて6月2日に組合長から資料提出し報告をした。」と答弁しているが、この答弁内容と先の「15年の9月から平成16年の4月の理事会までの間に担保不足が解消できている」という主張は、完全に矛盾する。担保不足が解消できているのであれば、その場で説明できたからである。

したがって、約1億8000万円の担保不足を強制的に解消するために、担保額の嵩上げと先順位額を抵当権設定額ではなく債務残高で計算することによって、本来約2億5000万円あった担保不足額を1956万円(「担保物件明細表(甲14)」)とする偽装工作をした。

2 平成19年11月15日7200万円追加融資について

(1)福良氏、川村氏共に、平成19年6月に採用された「担保評価要領」の認識を尋ねられて、「あんまり認識しておりません。(福良氏)」、「記憶に残っておりません。(川村氏)」と、処分可能見込額の算出過程に関知していなかった旨の供述をしているが、逆に言うと、先順位額を抵当権設定額ではなく債務残高で計算したことが、巨額損失をもたらした要因のひとつであることを十分に認識している証左である。

(2)また、同様に、福良氏、川村氏共に、追加融資前のモナコ観光の業績及び財務状況については、「記憶はございません。(福良氏)」、「ちょっと記憶にありません。(川村氏)として、直近の月次決算書や残高試算表を基に検証していたとの供述はなかった。

常識的に考えて、金融機関が、大口融資先の業績及び財務状況について調べずに追加融資することなどあり得ない。つまり、平成19年11月6日理事会答弁で分かるように、経営状態が悪化していることを承知で、不良債権化しないことを祈りつつ、追加融資をした訳である。

3 平成20年11月28日2000万円追加融資及び12月10日7200万円ひょっとこ苑融資について

(1)2000万円追加融資については、両名とも、「具体的に私は把握してません。(福良氏)」、「2000万を融資したという記憶は伝聞的に聞いております(福良氏)」、「支店がメインバンクでやったのではないかというふうに思っております。(川村氏)」と、知らない振りをしている。川村氏は、自ら知事に報告していながら、支店が勝手にやったことにしたのだから、〇〇〇〇並の厚顔さである。一方、福良氏は、川村氏が理事会決議違反である組合長単独決裁で実行した事実を認めると、両者共に不利になるので、関与していない旨の言い方をして誤魔化したと考えられる。

(2)ところで、この2000万円追加融資については、私が証拠として「2000万円金銭貸借契約証書(甲A16)」を提出した直後から、被告の主張は、12月10日7200万円ひょっとこ苑融資の一部を先行して実行したものというものだった。ところが、川村氏は、今回「支店がメインバンクでやったのではないか」と、2000万円追加融資が独立して存在していたことを認めている。

また、「ひょっとこ苑向け7200万円金銭貸借契約証書(乙8)」には、利率2.25%とあるのに対して、「2000万円金銭貸借契約証書(甲A16)」には、利率6.5%とある。

そして、「預金口座取引履歴(甲A13)」のモナコ観光(口座番号0009792)の21ページを確認すると、平成20年12月10日に、ひょっとこ苑から2000万円振替えられ、そのまま借入金元金償還に充当され、借入金利息46301円が引き落とされている。計算は、2000万円×6.5%×13/365=46301である。

したがって、「2000万円金銭貸借契約証書(甲A16)」は、あらゆる事実によって、その存在が確認されたので、ひょっとこ苑向け7200万円融資の一部という被告主張が虚偽であることは明白である。

(3)また、ひょっとこ苑向け融資7200万円の使途であるが、「そういった中身まで追ったという記憶がございません。(福良氏)」、「確認は取っておりません。(川村氏)」と両者とも、「後は野となれ山となれ」状態である。

平成20年11月26日理事会では、「JAが貸付を行うことにすれば担保力も余り減らずに問題もないのではないかと思う。(福良氏)」、「緊急にこの提案を受け入れてやった方がいいのではないかということである。(川村氏)」と両者とも、融資実行に強い意思を示したが、融資後は、何に使われようが、回収に問題を生じようが、関知していない。

もしかすると、外郭団体に補助金をつける政治家の仕事と同じ感覚で、組合員の財産を税収と同種のものと認識していたのかもしれない。組合長や会長といったトップに座ると、謙虚さを失わず自らを律することが非常に難しいことを教えてくれるよい事例である。

4 平成19年6月採用「担保評価要領」について

(1)先順位額を、抵当権設定額ではなく債務残高で計算した理由については、「担当部署から出てきてるもの、それをそのまま参考にしています(福良氏)」、「記憶に残っておりません。(川村氏)」と両者とも、殿様かのような緊張感のない返答をした。

と言うより、担保不足を隠蔽する目的で操作したことを悟られないために、福良氏は、計算した部下を信じる盲目的リーダーを演じ、川村氏は、忘却という名の自愛を用いている。

(2)二人の違いは、「個別に私の方で債務額ごとに見るということはしてございません。(福良氏)」と個別案件の検証は責任範囲外と言わんばかりの自己主張と、「担保評価要領」に従うべきだったかを質問されて、「はい。(川村氏)」と答えた責任を一部認める心象重視の差か。

5 常勤監事業務について

(1)5000万円以上の大口融資先についての債権管理をする検討会の実施の有無は、「四半期毎にはやっていた(福良氏)」と答えている。また、その出席メンバーには、「基本的には出席はしてたと思います(福良氏)」との供述から、検討会には本店審査会のメンバーに加え常勤監事がいたことが判明した。

そうすると、モナコ観光の担保不足について「平成16年の6月辺りの担保評価の話でしか、頭はございません。」「個別のそれぞれの1,2,3のパターンというのは、私は論議する必要もないし、頭にはございません。」という当時参事だった福良氏の供述は、検討会の主要メンバーだった事実との整合性がない。

また、常勤監事時代にも、個別案件の債権管理状況を検討会時に把握していた筈であるから、平成19年と20年の7200万円追加融資決議時において、債権保全を優先する判断をできたことになるが、にも拘わらず、理事会で融資決議に異を唱えることはなかった

(2)福良氏は、監事としての仕事内容について「理事の業務が適正に執行されているかどうかの意見を述べること」「業務監査」を述べている。

この福良氏の供述は、私が、準備書面(第132号原告第2)の第1の2で紹介した「系統金融機関向けの総合的な監督指針」の内容と大きく異なる。具体的に監督指針には、常勤監事の役割として「組合内の経営管理態勢及びその運用状況を日常的に監視・検証」「理事が内部管理態勢(いわゆる内部統制システム)の構築のための義務を適切に果たしているかを監査する職務」と表現されている。

したがって、監督指針に照らすなら、福良氏の認識は極めて甘く、その認識不足が、モナコ観光の債権管理上の問題として具現化したことは明らかである。

(3)因みに、福良氏は、監事の担当は部門ごとに分かれており、「融資ですので、私はノータッチでございます。」と供述している。私が、かつて日向農協で監事を2期6年間勤めた方に確認したら、「監査報告の担当は部門別に分業していたが、常勤監事は、監査報告の担当に関係なく業務全般の監査をしなければならない。」と説明してくれた。そして、「融資ですので、私はノータッチでございます。」との供述は、言い逃れに過ぎないと言った。

6 信用リスク管理の稚拙さ

(1)福良氏、川村氏共に共通する特徴として、金融機関として当り前のモナコ観光の経営及び財務状況の検証をしていないし、かつ軽視していたことが挙げられる。

融資審査時の直近の決算状況及び財務状況の確認の有無の質問に対し、「記憶はございません。(福良氏)」、「ちょっと記憶にありません。(川村氏)」と、金融機関の融資担当者もしくは管理者としては、唖然とする供述しか出てこなかった。

私が、以前某地元企業の財務管理状況を知る機会を持った時、その企業では毎月財務指標の前年比と前々年比を出し、さらに厳密な資金計画表を毎月作成して取引金融機関(メインバンク)に提出していた。また、金融機関に提出した財務諸表と資金計画表については、金融機関の担当者からの質問も日常的にあった。一方で、川村氏が、流動比率の適正値を答えられなかったことは、日向農協の信用リスク管理の稚拙さを象徴していると言える。

(2)もうひとつは、本件裁判対策を目的として、追加融資時の審査書類がないという理由で提出されていないことから、平成19年以降の経営状況が不明であるが、想像するに、相当悪かったと考えられる。

簡単に言うと、とても追加融資できる経営状況ではなかっただろう。言い換えると、信用リスク管理は全くできていなかったのが事実である。具体的には、平成20年11月28日2000万円追加融資及び12月10日7200万円ひょっとこ苑融資時の経営状況は、ほぼ破綻寸前の状況だった。それでも融資を実行したのだから、常軌を逸している。

また、理事会で否決された2000万円追加融資は、11月28日の手形の不渡を避けるために実行されたものだが、その償還を12月10日7200万円ひょっとこ苑融資資金から回収することはセットになっており、だから、7200万円のひょっとこ苑融資の必要があったのである。つまり、融資決定段階で、介護施設建設資金でないことは分かっており、目的は、一時的な延命でしかなかった。なぜこれほどまでにモナコ観光に便宜供与する必要があったのかは不明だが、恐らく、冷静さを失い、破綻を避けることができるという判断ミスの罠に嵌ったのだろう。

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